初日舞台挨拶レポート

レポート

■日程:2022年6月24日(金)
■登壇:中村倫也、吉岡里帆、向井理

劇団☆新感線41周年興行秋公演として2021年に上演された、いのうえ歌舞伎『狐晴明九尾狩』。
コロナ禍で2020年の『偽義経冥界歌』の東京公演の一部、福岡公演の全公演が中止となりましたが、それ以来の劇団☆新感線フルスペック復活上演となったのがこの作品。さらにゲキ×シネとなることで、複雑な伏線を表現する俳優の表情や作り込まれた美術や衣裳など、舞台の興奮はそのままに映像ならではの楽しみ方ができるものになっています。
全国公開となった6月24日には新宿バルト9にて舞台挨拶を決行!
座長で主演を務めた中村倫也、この作品が劇団☆新感線に初参加の吉岡里帆、そして『髑髏城の七人』Season風に続き、劇団☆新感線2度目の参加となる向井理の三人が登壇。演劇に造詣の深いフリーアナウンサー中井美穂さんの司会進行により、稽古や公演での思い出や爆笑エピソード、劇団☆新感線ならではの空気感から作品の見どころまで、たっぷりと語り合いました。
その様子をダイジェストでお届けします!

中村
──まず、自己紹介をお願いいたします。

中村:本日はご来場いただきましてありがとうございます。安倍晴明役の中村倫也です。全国の映画館のみなさまもこんにちは。

吉岡:タオ・フーリン役の吉岡里帆です。今日は楽しんでいただけるように、トークをぶちかましていきたいと思います(笑)。よろしくお願いします。

中村:なんでそんなにハードルを上げるの?(笑)。

吉岡

向井:(笑)。本日はお暑い中ありがとうございます。賀茂利風役の向井理です。これから上映なので、あまりくわしいことは言えませんが、楽しんでいただけるポイントをお話しできたらと思います。よろしくお願いします。

向井
──中村さんは安倍晴明を演じてみてどうでしたか?

中村:いのうえ(ひでのり)さんとはお仕事を何回かさせていただいていましたが、(中島)かずきさんとは初めてだったんですよ。ご挨拶はしていましたが、ご飯に行って深い話をすることもなかったのに「なんでこんなに俺のことがわかるのかな?」というくらい、台本を読んでいても台詞や行動が腑に落ちるというか。そういうところが多かったので、いつかかずきさんになぜわかったのか聞いてみたいですね。聞かないほうが楽しいかなと思ってまだ聞いていないですけど。そんな感じの役でした。

──どんなところに「なんでわかるのかな?」と思ったのでしょうか?

中村:「人も妖かしも、ともにいてこその都」みたいな台詞があるんですけど、そういうノリですかね。そういうところが役の節々に……、いや端々にか。節々だと身体が痛いとかになっちゃいますね(笑)。

──(笑)。新感線は5年ぶりのご出演でした。懐かしかったですか?

中村:新感線は、劇団員の方々が客演を迎え入れることに本当に慣れている人たちなので。稽古初日だったかな、粟根(まこと)さんが「スタッフさんで名前がわからない人がいたら聞きに来てね」と言ってくださるなど、劇団員の中になんとなく担当ができあがっているんです。全体を見ている人と裏で支える人、そしてとにかくふざける人、みたいな(笑)。すごく頼もしい先輩方で「ふざけてみて」と言われたらもう誰よりも面白いし……、なんですかね? あの感じは。(自分が)育った場所ではないですけど、妙に安心感と信頼感がある、全力で甘えられる人たちという感じでした。

中村
──吉岡さんは今回が劇団☆新感線初参加でした。

吉岡:初めてだったんですけど、劇団員のみなさんもすぐ仲間に入れてくださって。稽古も本当に楽しかったですし、本番を迎えてからは、劇団☆新感線をずっと追いかけてこられたファンのみなさんの温かさを劇場で感じました。参加することができて、本当に光栄な仕事だったと思います。ただ体の節々はずっとずっと痛かったですね。それが心に残っています(笑)。

──お体はもう復活されましたか?

吉岡:ついに復活しました(笑)。終わってからも半年ぐらい「なんか節々が痛いな」みたいな感じだったんですけど。でも、それは自分が強くなっていくのが実感できるような、やりきった感じがある痛みというか。やっぱりパワフルですね、新感線は。

吉岡
──舞台衣裳も狐の耳とモフモフの白い尻尾とブーツで。

吉岡:私が想像していた狐とはちょっと違いまして。尻尾がめっちゃ大きいので、それはこれからの上映で観ていただきたいです(笑)。ただ、尻尾と耳の重さに殺陣の動きがついていかないこともありました。稽古では軽い発泡スチロールみたいな材質の尻尾をつけていたので、本番用をつけた瞬間に重心も変わって難易度が上がるんです。周囲のみなさんに励まされながら頑張っていました。

──登場シーンから、早乙女友貴さんとかわいい姉弟で登場されるので、そこはぜひ見逃さないようにしていただきたいですね。

吉岡:弟のランがめちゃめちゃかわいいので、ぜひランを堪能してください。

──そして衣裳の大変さでは今回、向井さんが一番難易度が高かったのではないでしょうか。

向井:とにかく重かったです。あまりにも重くで途中で変えてもらったんですけど、ちょっと立ってるだけで疲れてきて(笑)。二幕構成のお芝居ですけど、二幕の最後が一番重かったです。でも、あれは変えてくれなかったですね(笑)。衣裳が変わることで強くなるというか、変身していく感じでした。

──大変だったと思いますが、なにか今回の思い出はありますか?

向井:僕も倫也と同じで新感線は2回目だったので、稽古に入ってみて「あ、こんな感じだったな」という感覚がありましたね。今回が「初めまして」の劇団員の方もいらして、ご一緒してみたいと思っていたからそれはすごく楽しかったですし。やっぱり新感線はチームとして成熟してるんですよね。元方院役の(高田)聖子さんが「私たちはスパイスだから」とおっしゃっていましたけど、僕ら客演をアレンジしてくださる存在だったので、一生懸命やるだけでその色に染まっていけるような劇団だと思います。

──それぞれのエピソードを伺っていきたいと思いますが、まず中村さんから見た吉岡さんについて教えていただきたいです。

中村:いや、すごかったですよ。新感線のメインとして客演する女性キャラ、しかも若い方に求められる要素はまぁ大変なんですよ。コミカルさ、愛嬌、ひたむきさもそうですし……、それを表現するにはめちゃくちゃ芝居で体力使うので。今回は友貴という殺陣の達人とコンビでの立ち回りも多かったですし。新感線は客演の女優さんに相当大変なことを求めるのは、みんな知っていることですけど、たぶん里帆ちゃんはあまりわかっていなかったので……(笑)。

──稽古場でも向こう見ずで頑張っていらしたとか。

中村:もちろん不安はあったと思いますけど、あまり人に弱いところを見せない人なので「大丈夫です!」と言いながら、大丈夫じゃない状態になっていくみたいな感じでしたね(笑)。でも、これだけ一生懸命やれる人は少ないだろうなと思いましたし、本当に立派な女優さんだなと思いました。

吉岡:ありがたいお言葉です。

中村:そう言われると恥ずかしいですけど(笑)、でも、すごいなと思いましたよ。これは舞台をご覧になった方もわからないと思いますけど、とにかくやることが多いんです。だからちょいちょい頭が追いついていかない、体が追いついていかない、みたいな状態の里帆ちゃんを、稽古でも本番でも何回か見ました。その抜け殻みたいな状態が見ていて、僕は楽しくて好きだったんですけど(笑)。

吉岡:(笑)。灰みたいになってる日が何日かありましたね。燃え尽きすぎて。本当に同時にやる要素が多いんですよ。それでいのうえさんの演出は「人間離れしたことでも人間はできる」と信じている演出というか。「君たち役者なんだからできるよ! 頑張れ!」みたいな(笑)。だからこちらもやるしかないというか、「そうですよね、やります!」と。「プロだし、頑張るぞ」って。

中村:本番中も今くらいの距離のところに、一生懸命動いて頑張って台詞を言っている里帆ちゃんがいるんですけど「魂はどこかに行っているな」という瞬間があって(笑)。「幽体離脱ってこうやるんだ」と思いました。でも、最後まで大きな怪我もなかったですよね。

吉岡:そうですね、無事にやり終えましたね。

中村:なかなかできることじゃないなと思いますよ。

吉岡:みなさんに支えられてなんとか、でしたよ。本当に。

──続いて、吉岡さんに向井さんについて伺いたいと思います。

吉岡:向井さんとは『狐晴明』の前にドラマで何度か共演させていただいていて。舞台でしっかりお芝居をご一緒するのは今回が初めてでした。初めてお会いしたドラマでは向井さんが悪役で、私はいじめられるような役だったんですけど、脚本のかずきさんが「そのドラマからもちょっとインスピレーションも受けてるんだよね」と、冗談なのか本当なのかはわかりませんけど、おっしゃっていて(笑)。そういうご縁も汲み取ってくださるのもすごくうれしかったです。そして何年ぶりかにお会いした向井さんはやっぱり変わらないというか……まず頭身がすごいです。

向井
──本当にお顔が小さくて……。

中村:なんかやってるの? 力持ちに顔をギュッとやられてるとか?

向井:だって子供の頃から……。

中村:え!? 子供の頃からこの頭身なの?

向井:そんなことはないけど、自分としては変わってないから、別になんとも思ったことがない。

中村:『キャプテン翼』の世界だよ、頭身のバランスが。

向井:でも、竜星のほうがスタイルはいいよね。

中村:あぁ、竜星もね。

──竜星涼さんもスタイルは相当すごいですよね。

吉岡:確かにそうですよね。まぁそういうこともあって……、向井さんが今回のお衣裳を着られると本当に美しくて。白と銀の着物がもう映える映える! 神々しいというか、悪役だけれど本当に美しくて憎めない。私はお二人が最後に……あっ!

──ネタバレになるか、微妙なところですか?

中村:いいよいいよ、言っちゃえよ!

向井:まぁ、タオが二人を見ている場面ってことだよね。

吉岡:そう、私は見ている人なんです(笑)。

中村:(とぼけて)え? なに? どういうこと?

吉岡:見ていて、男性同士のお着物を着たバトルのシーンは素晴らしいなと思いました。

中村:急に話がぼやけたな(笑)。

向井:言葉を選んでるな(笑)。

吉岡:すみません!(笑)。ご覧になる方にはやっぱり新鮮な気持ちで楽しんでいただきたいので。私自身も舞台ならでは凄みもたくさん感じましたし。向井さんは今回、結構強烈な役だったじゃないですか? でも普段はすごくリラックス感がありますよね。

向井:今日も裸足だからね。

中村:サンダル履きで。バケーションですよね、この格好は(笑)。

吉岡:なんか存在がチルなんです。

向井:褒めてんのかな?(笑)。

吉岡:褒めてます! 午前中に劇場で殺陣の練習をするんですけど、向井さんだけ森みたいな感じをまとって入ってこられます。「おはよう、みんな」みたいな感じで、森を背負って入ってこられるんですよ。爽やかな……。

中村:アイスコーヒーとヨガマットを持ってね。

向井:そうそう、ヨガマットは常に持っていってた。

吉岡:「まぁまぁ、そんな力まずに頑張ろうよ」みたいな感じが、私は目を血走らせてやらなきゃと思っていた一人だったので、救われるじゃないですけどありがたいなと思いました。マイナスイオンをいただいていましたね。

吉岡

向井:僕は今回、そんなに笑いを取る役どころではなかったのですが、唯一笑えるというか、いのうえさんが面白がったところがあって。そこは友貴と2人のシーンなんですが、関係性がわかるように楽しみながら、ちょっとふざけてみています。

中村:スナックのシーンね。

向井:そう、ちょっと照明が変わるんですけど(笑)。

──そこは公演序盤からバージョンアップしていったと。

向井:大阪公演の最後は尺が倍ぐらいになっていて(笑)。いのうえさんがウケないのに伸ばすから、友貴が困っていましたね。公演を観た奥さんに友貴が「あれ、みんな全然笑ってないけど大丈夫?」と言われたくらい。今回ゲキ×シネで観ていただいて、なんとなく変なシーンがあるんですけど、公演の最後のほうはもっと変なシーンになっていたという。だから、まだましなバージョンを今回は観ていただけると思います(笑)。

中村:東京公演をやって、大阪公演をやりましたけども、観ていただくのは東京公演の映像なので。新感線ってわりと公演期間が長くなるほど、いのうえさん自体が飽きて別のネタを持ち込んで、それによって全然ウケないという状況が起きやすいんですよ(笑)。

向井:そうそうそう!

吉岡:私は聖子さんと楽屋が一緒だったんですけど、楽屋のモニターで本番の映像が流れてるんですよ。そこでどんどんネタが増えていく友貴くんを観た聖子さんが「ホンマにかわいそうやわ……」と(笑)。

中村:ちょっと変わった劇団だよね。誰も笑ってないことが面白いみたいな、独自のゾーンを持っている劇団だから。

向井:河野(まさと)さんとか、笑いが起きるとやらなくなるからね。

中村:河野さんは笑いが起こったことはもうやらない。笑いが起こると舌打ちするという俳優なので。

向井:よくわからないよね(笑)。

中村:ちょっとおかしな人たちなので(笑)。

──向井さんには中村さんについて伺いたいです。新感線で初座長を務められたわけですけど。

向井:新感線は一つのジャンルとして確立しているくらい、はっきり色のある劇団ですし、そこでトップでやるのにはプレッシャーもあったと思いますけど、それよりも、なにか感慨深いものがきっとあったんじゃないかな。肩肘張ってというよりは、とにかくいろいろ楽しんでやろうという姿勢を見ていて感じましたし、そっちの方が初新感線の里帆ちゃんもそうだけど、客演の人たちもやりやすかったんじゃないかと思いますね。気負うというよりはとにかく楽しむ。まぁ大変なのは当たり前の現場なのでね。

中村
──この話には、途中で若い頃の二人が出てくるわけですけど。それがもう本当にキラキラしていて……。

中村:お好きですね(笑)。

──あそこはすごく貴重なシーンなので、観た方はみなさんお好きだと思います(笑)。

向井:あそこは3年前の回想に飛ぶので、衣装が変わることでわかってもらえるようにしてるんですけど。あそこにエピソードのポイントとなる台詞があって、そこからすべてが始まっているんですよ。

──晴明と利風は幼馴染であり、ライバルでもあるという特別な間柄ですけど、お二人はこれまで共演されたことは?

向井:倫也が10代の頃に……。

中村:僕が18、19で、理っちが22、23ぐらい?

向井:映画で一緒でしたね。

中村:お互いに坊主で特攻兵の役で。

向井
──今回組んでみて、お互いの印象は変わりましたか?

向井:いや、変わらないです。

中村:僕も変わらないな。

向井:そのときも、たぶん倫也が現場では最年少だったんですよ。だからみんながお兄ちゃんみたいな感じで甘えてきたり、こっちからからイジったり、そこはあまり変わっていないし、その時から生意気でしたよ(笑)。

中村:(笑)。みんなでその当時の理っちの家へ遊びにいって。

向井:言わなくていいよ(笑)。

中村:だいぶ昔だからいいじゃん(笑)。そこでみんなでゲームをやって。そんな二人が何年ぶりだろう……。

向井:15年ぶりぐらいじゃないかな?

──こうしてお二人で新感線の真ん中に立たれるようになられて。では最後に言える範囲で見どころを、ご覧になるみなさまへのメッセージと併せていただければと思います。

向井:安倍晴明はわりと知名度のあるキャラクターですけど「こういう人生だったのかもしれないな」と思いながら見ていただければ、より深くハマれると思います。僕が演じた利風は、わりと最初からちょっと不穏な感じで始まり、だんだんと変化していく流れが、僕の中では一番気を使ったところですね。声色やテンポを稽古場で調整して本番を迎えたので、そういう微妙なところ、とくに表情などは舞台よりも映像のほうが、細かいところまで観られると思います。そういうところをご覧いただけると「ここには、こういう意味があったのか」と改めて感じていただけると思いますし、映像ならではの楽しみ方ができる作品になっていますので、最後まで楽しんでください。

吉岡:安倍晴明と利風の深い絆、もう見どころはそこですね。その絆を最後に感じたときに、「尊い」という言葉を私は普段あまり使うことがないんですけど、ここは使いどころだなと思いました(笑)。タオ・フーリンとしてお二人を観ていて「あぁすごいな、尊いな」と思ったので、そこをじんわり感じていただきたいなと思います。私が出てるシーンに関しては、笑いの間をめちゃめちゃ頑張って稽古しているので(笑)、ほんのちょっとでも笑っていただけたらとっても幸せです。

中村:ゲキ×シネって演劇とシネマを合わせた造語だと思うんですけど。それくらい映画館で演劇を見ることに特化して作ったものなので、舞台が観られなかった方もこれをご覧になれば同じように、もしかするとより細かいところまで楽しめるようになっていると思います。観て損のない作品になっていると思いますので楽しんでいただきたいです。見どころは一生懸命頑張る狐さんと、「私も魂を吸い取られたい!」という人が続出の理っちですね(笑)。ご覧になった女子が「私もひどいことを言われたい。セクシーボイスでなぶって!」と思うという(笑)。

向井:もういいんじゃない?(笑)。

中村:もういいか(笑)。あとはなんと言ってもにーにー(竜星涼)の肩の筋肉も見どころだと思います。そして歌うにーにーも観れますから。歌うにーにー、踊るにーにー、叫ぶにーにーに……、あとはなんのにーにー?

吉岡:笑うにーにー?(笑)。

中村:(笑)。はい、どうでもいい話は終わります! ぜひみなさん、どうぞ楽しんでください。